歯茎は年齢とともに徐々に衰えます。これは体のどの部分でも同様におこる生理現象です。入れ歯の下の歯肉、顎骨は、健康な方でも吸収して痩せていきます。1年で0.2,3mmの吸収と言われています。入れ歯を作ったときは具合が良かったのに、最近入れ歯が当たって痛くなってきたというのはそれが原因です。年月に伴う口腔内の組織の変化や、入れ歯に使用している人工歯の磨耗などにより、徐々に入れ歯が合わなくなることがあります。合わなくなった入れ歯を長い間使用していると、歯や歯周組織、顎の関節に悪影響が生じます。
口は消化器官です。そして入れ歯は体の一部、重要な臓器そのものです。定期的にメンテナンスすることで様々な病気の予防にもなります。不具合のある入れ歯が原因で、口内炎,歯肉癌など悪い病気の原因になる場合もあります。
自分の歯がたくさん残っている時は定期健診を必ず受けていたけれども入れ歯になったら定期健診が必要ない、快適に噛めるとメンテナンスなんて必要ないとお考えの方は少なからずいらっしゃると思います。しかし、汚れが溜まると口臭の原因になったり、見た目もよくありません。特に部分入れ歯の場合、メンテナンスをしないと、土台になっている歯が歯周病になって抜けてしまいます。
入れ歯をお口の中で安定させるため、残った歯に金属製のバネをかけたり、入れ歯の裏側を歯ぐきにぴったり合わせて吸盤のような働きをさせるようにして作ります。入れ歯を作った当初はピッタリでも、入れ歯を長期間使用することにより、歯ぐきや顎の骨がやせたり、入れ歯の歯がすり減ってきます。そのため、歯ぐきが痩せたまま入れ歯を使用すると、本来入れ歯全体に分散させているかむ力を、一部の歯や歯ぐきで負担するようになり、バネをかけている歯がぐらぐらに動いてきたり、入れ歯の裏側や縁で歯ぐきを傷つけます。また顎の骨にも不均一な力がかかり、入れ歯を支える顎の骨がやせ細り、入れ歯を支えることが難しくなります。一方、入れ歯の歯がすり減ると、入れ歯のかみ合わせと顎の関節の動きと調和しなくなり、あごの関節の周りの筋肉が痛くなったりする場合もあります。また、噛み合わせが低いため、舌や頬を噛みやすくなります。
部分入れ歯を入れている方は残っている自分の歯に被せ物が入っていることが多いです。被せ物の材質として保険適用の金属(いわゆる銀歯)、保険適用外のゴールド(いわゆる金歯)、保険適用外のメタルボンド、オールセラミックス(白い被せ物)があります。一人の患者様のお口の中で上下で違う材質(硬さ)の被せ物が入っていることはよくあります。上下で違う材質の被せ物が入っており食事等でそれをこすり合わせるとどうなるでしょうか?当然、硬い材質の被せ物あまり磨り減らず、軟らかい材質の被せ物や入れ歯の歯は磨り減りやすいということは想像できると思います。この状態が永く続くとあごのずれや残っている歯のぐらつきが生じます。そこで定期健診で残っている歯の検査(歯槽膿漏、虫歯)だけでなく、噛み合わせのバランスチェックを受ける必要が出てきます。
上下とも総入れ歯の方であれば上下の材質が同じなので定期健診は必要なさそうに思えます。しかし、総入れ歯になった患者様の多くは順番に歯を失いその結果、総入れ歯になられた方が多いと思います。自分の歯では食物の歯ごたえを感じることができますが、入れ歯ではそれが感じられません。そのため最後まで自分の歯が多く残っていた方での噛み癖が残ってしまいます。例えば、右側に歯が最後まで残っていた方ではその歯を失って総入れ歯になった後も右噛みの傾向になりやすいです。そのため左右で入れ歯の歯の磨り減り方が違ってきます。ここまでお話すればお分かりいただけるとおもいますが、総入れ歯でも定期健診で噛んで痛むところがないかというチェックだけでなく左右の噛み合わせのバランスチェックが必要です。
いつも動いている口にピッタリ合わせるためには、何度も調整を繰り返す必要があります。歯がなくなった歯茎は、時間とともに痩せていきます。作った当初はピッタリと合っていた総入れ歯の床と歯茎にすき間ができてきます。そうなると、歯茎に吸い付いている総入れ歯は安定しなくなります。定期検診でこのわずかなすき間をいち早く発見し、調整すれば、いつまでもピッタリの状態が保てます。
入れ歯が合わなくなったり壊れたときにご自分で直そうとなさる方が時々いらっしゃいます。大抵はますます合わなくなって悲惨な状態になっています。よくあるのが、割れた入れ歯をアロンアルファやボンドなどでくっつけてくる方、当たって痛いところをヤスリで削ってくる方、いずれの場合もそれをやったことによって最悪の場合入れ歯を使用不能にしてしまう方もいらっしゃいます。
噛み合わせという複雑な要素もからんできますので、入れ歯の調整や修理は素人の方には絶対無理といっていいでしょう。
入れ歯が合わなかったり壊れたりしたら自分で直そうとせず、必ず歯科医院に持って行って直してもらいましょう。